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1章-p1 呼び名
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世界では千年年に一度蘇ると言われる邪神が復活し、世界は混沌としていた。しかし、世界を守るべく集まった亜人種と人間、妖魔等が集結し邪神の封印に成功。世界は平穏を取り戻していた。
そんな事があってから半年後の出来事...
その再会は夕刻の買出しに出掛けた街中での事だった。
茶色の髪に、薄い色の瞳をした長身の男の名はザムシル。彼は、最近この辺りに主君とともに引っ越してきた所だった。
彼はいつもの市場で買い物を終えると、通ったことの無い古い商店が並ぶ道をなんとなく通ってみようと思い、既に買い終えた食料を両手に道へ入る。
市場より人通りは少ないが常連の顧客がある程度あるのであろう、古いながらも綺麗に商品の並んでいる店が多い。きょろきょろと商店の品ぞろえを見つつ歩く。
ふと、塗装が所々剥げているが手の込んだ装飾が目立つ骨董品店が目に入る。硝子張りのショーウィンドウの中のネックレスが主に似合いそうだなと考え立ち止まった。
しばらく見ていると、店員が店から出てきたのを視界の端でとらえ、目を合わせる。
それは見たことのある顔だった。
「あ、お前、左手の泥棒!」
「?…ああ、おまえ…ザムシルか。」
面識のある男が一瞬不思議そうな顔をしたのは、ザムシルの容姿が変貌していたからだろう。ザムシルは少し前まで主の能力により少年の姿をしていたからだ。そして今は大人の姿になっている。
そっけない返事をした左手の──と呼ばれた男とザムシルは顔なじみだった。そう、二人は先の邪神討伐戦に最前線で参加していたのだ。そして、一時は命を狙い合う敵対関係だった。
特にザムシルを警戒する様子もなく、店の商品窓を拭こうと雑巾を絞り始めた。エプロンを付けているところを見るとここで働いているのだろう。
「仲間とこっちに来てるのか?」
ザムシルが男に尋ねると男は窓を拭きながら小さい声で「いいや」と答えた。
ザムシルがこっちと言ったのは、現在ザムシル達がいる世界ダークの事を示した。反対にサールと呼ばれる表世界があり、ダークは裏世界と言い表すのが相応しい大地だ。大地の広さや、人種の豊かさ、治安など相違点は多々あるが、ダークは秘められた古代の土地と言い伝わっている。
どうやら男は1人でこちらの世界に来ているようだった。さらになぜひとりなのかとザムシルが尋ねると「色々あってな」とまた小さな声で答えた。
「人に色々聞くがおまえは…1人じゃ無さそうだな」
1人で移ってきたのではないとバレたのは恐らく両手に抱えた食料のせいだろう。
「オレがリラレル様と離れるはずがないだろう。今は森でリラレル様と暮らしている。リラレル様が穏やかに暮らしたいそうでわざわざ森の一部を切り開き土地開発したんだ。ん、森の暮らしも悪くは無いぞ。」
土地開発した事を誇らしげに話したせいか、「なんだかよく喋るな。」と言い男はなんかだか少し笑っているようだった。
今は敵対しているわけでもなく、万が一この男に恨まれて突然襲いかかってこようともザムシルは負ける事はまず無い。何を話そうと自由だ。そういえば男によく喋ると言われ、リラレルにも以前「ザムは本当はおしゃべりさんよね」と言われたことがあるのをザムシルは思い出した。この時リラレルがもっと話し相手になって欲しいのだと遠まわしに言っていることに気づき土下座しながらいくらでも話し相手にしてくださいと懇願したのを覚えていた。
「バイトくん!終わった??あっれ、もしかしてお友達?」
話をしていると店から器量の良さそうな女が顔を出した。恐らくこの店の店主だろうとザムシルは思った。バイトと呼ばれた所を見ると男はやはりこの店で雇われているらしい。
店主はニヤニヤしながらザムシルの方へ近寄り「ねえ君、バイト君のお友達なの?」と聞いてきた。
「友達…?とは明確な肯定は出来ないが知り合いなことは確かだな。」
「じゃあさ、ひとつこの子について聞きたいんだけど…」男は店主に絡まれるザムシルの様子を無表情のまま横目で眺めていた。
「このバイトくんさあ、自分で俺には名前が無いって言うのよ!だからとりあえずバイト君て呼んでるんだけど呼びにくくって、ほんとにこの子名前が無いの?それとも隠してる事情があるのかしら?」
彼は名を名乗っていなかったらしい。しかし、名前が無いらしいのは確からしい、ザムシルも手配書で知り得た名前つまり、左手の泥棒と呼んでいる。
「そうだな店主、オレの知る限りではこいつにはこていされた名前が無いというのが正しい見解だ。仲間からもそれぞれ別の名で呼ばれていたぞ。」
「うっそ、マジで名無し君なの!じゃあお友達くんなんか名前付けてあげてよ!」
「何故オレが名前を?というか本人の了承は得なくていいのか」
店主がいいよね?と本人に視線を送る。
「別に構わない、適当に呼んでくれ。」
「だってー、ほら、考えて、言って、さんはい!」
というか何なんだこの店主は、やたらにテンションが高く、声も高く、近くで騒がれると微妙にイライラしてきそうだ。コイツはよくこんな店主の元で働いているなとザムシルは感心してしまいそうだった。
「ああ、じゃあ…昔の英雄の名から引用して…ダードでどうだ。」
「あっいいかも、似合う!ね?どう?ダード君?」
自分の呼び名を強引に付けられた男は大して表情も変えずに「それでいい」と素っ気なく言った。
「よしっ決定!じゃあ、ダード君とお友達君にこれプレゼント」
そう言って店主は2人にに小さな紙切れをくれた。
「人気のバーのサービス券だよ、2人で飲みに行っちゃいな!って、そうだじゃあ、ダードくん窓拭き終ったら上がってね―それを言いに来たんだったー」とめぐるましく話終えると店主はスキップしながら店の中へ戻って行った。
「…やかましい女だな」
「人柄は悪くない」
ふと手に持たされた紙切れに目を落とす。
「良かったらリラレルと行くといい」
男、改めダードは自分用に渡されたサービス券をザムシルに差し出た。
「いや、リラレル様はあまり酒は好まないからな。お前こそ一緒に行く相手がいればコレを譲るぞ」
ダードは少し目をそらすと「一緒に行くような相手はいないんだ」と言った。
「じゃあ、仕方ないな、今夜にでも行けるか?」
「本当に俺と行く気なのか」
「本当に行かなければあの女はうるさそうじゃないか?」
ダードはザムシルの発言が予想外だったのか目を丸くしていた。
「リラレルは怒らないか、勝手に外出して」
「勝手に行くものか、ちゃんとリラレル様には事情を話してから行く。」
「そうじゃなくて…いや大丈夫ならいいんだ。今夜ならまあ、予定もない。」
「そうか!なら日が暮れた頃にまたここにくるから待ってろよ。」
「ああ」
さり際にダード顔をちらと見たら、なんだか少し嬉しそうな顔をしているように見えた気がした。そんなにこちらに知り合いがいないのだろうかと、ザムシルは思った。
両手の荷物を少し高めに持ち、ザムシルは住居がある森へと少し早足で向かうのであった。
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